「……で、何で誘拐なんぞされちまったんだ?」
 互いの無事と健闘を讃え合った後、話を切りだしたのはファルコだった。
「それがさ……よく分かんないんだよね……」
 問いかけられたが、ひょい、と肩を竦める。
「解らない? だが、今ワシらが相手をしていたのは……」
「アンドルフ軍の残党だったよね? あの紋章、見覚えがあるし」
 ペッピーの消えかけた言葉の続きを、スリッピーが首を傾げながら紡いだ。が、こくん、と頷く。
「うん、それは解ってる。解ってるんだけど……」
「何が、解らないんだ?」
「うん……何かね、残党の一人が言うには、私がアンドルフの遺産を持ってるんだって」
「……遺産? それは確かに、解らないな……」
 彼女の隣に立ち問いかけたフォックスが、顎に手を当てて考える。
「本来の目的はこいつで、餌の為に連れ去られたんじゃねぇの?」
 ファルコがアンドリューを指差しながら言う。こいつ扱いされた彼がむっとして名前で呼べと文句を言ったが、ファルコはそれを無視した。
「いや、多分、それは無いと思う。遺産のみが目的ならば、彼を直接攫えば良いことだろうし」
「ならば、同じ理由でがその遺産という可能性も消えるな」
 フォックスとペッピーの推測に、残りの一同が唸って黙り込む。自身はの件とアンドルフの甥と共に過ごしているという事を除けば、スターフォックス達よりもアンドルフ軍とは繋がりが薄い。その彼女が、何故「遺産」というキーワードによって誘拐されてしまったのか。
「……あ、そういやさぁ……」
 沈黙に耐えられなくなったか、別の事をふと思い出したが、顔を上げてアンドリューを見た。
「これって、何か意味のある物なの?」
「これ?」
「これ。君からもらった、ペンダント」
 言いながら、胸元からペンダントを引っ張り出す。数年前、まだアンドルフ軍がコーネリアに侵攻する以前に、彼から貰った「親愛の証」。
「私、残党の兵士に、その、乱暴されそうになったんだけど、その時に……」
『何!?』
「……あ、いや、実際にはされてないよ」
 鋭い視線を一身に浴びて、彼女が慌てて訂正する。何もされてはいないが、しかしされそうになったという事が既に問題らしく、心配する目と、ここには居ない乱暴しようとした兵士に向けた怒りの目が、真っ直ぐ彼女にぶつけられる。彼女はたじろいだが、しかしこのままでは話が進まないと、こほんと一つ咳払いをした。
「でね、その時に、その兵士がこれを見て、手を止めたの」
 その後の扱いが、まるで客人のようだったと続ける。「レオンに押し倒された時もこれがあったおかげで助かった」という言葉は、すんでの所で飲み込んだ。言えば、先程以上の大騒ぎになるだろう。
「それは、叔父さんに頼んで作ってもらった物だ。アンドルフ軍に属している物に対して、この者に手を出すな、というメッセージが伝えられるようになっている」
 どういう仕組みになっているのかまでは解らないが、とアンドリュー。彼が最初にと出会い別れる時は、アンドルフ軍がコーネリアに対して侵攻する直前だった。故に、もし万が一巻き込まれた時の為に、彼女が無事であるようにと渡した物だったのだが、それは軍自体が壊滅した今でも、効果を発揮して彼女を護ってくれるらしい。あの時叔父さんに頼んで良かった、と彼は思ったのだが。
「……それが、遺産という可能性は?」
 狐の青年の言葉に、アンドリューが我に返った。思わず彼の顔を見ると、青年が真っ直ぐこちらを見つめている。
「……これが?」
「あぁ。上手く言えないんだけど、アンドルフが、万が一自分が滅びた時の為に、「遺産」も消滅させないように、自分の手元には置かず、敢えて全く関係の無い人間に託したという可能性は?」
「……まさか、と言いたい所だが、否定は出来ない」
 言うと、隣のが深々と溜息を吐いた。
「……何で、私の所にそういう物が集まって来ちゃうのかなぁ? 最終的に、私実はアンドルフの花嫁になる人間とか言わないよねぇ?」
「まさか!」
「馬鹿言え」
「それは無い」
 スリッピーが絶叫を上げ、ファルコが鼻を鳴らす。唯一冷静に否定したのはアンドルフの身内。あまりの静かな言葉に、一同が彼に注目する。それが予想外の事だったのだろう、彼は少し慌てた風に説明した。
「いや、別に根拠も無しに言っている訳ではないぞ。叔父さんには、親しくしている女性研究者が居たからな」
「……親しく? それって、付き合ってるとか、そういう意味?」
「あぁ」
「えぇ〜!?」
 恐る恐る訊ねられてアンドリューが頷くと、スリッピーが丸い目を更に丸くした。声には出さなかったが、ファルコも腕を組んだまま呆然と彼を見、フォックスもペッピーも、驚いた様に口を開けている。唯一だけが、周りの反応に付いていけず、きょとん、と首を傾げていた。

 

 

 

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