「私にもたれかかって寝ても良い」と許可を与えて以来、こいつは隣でよく寝るようになった。
 というよりも、恐らく元に戻ったというだけのことなのだろう。二人掛けのソファーは元々こいつの昼寝の場所だったようで、幼い頃は父親を枕に、一人ぼっちになってからは大きなクッションを枕にすよすよ眠って居たらしい。私がそこに座るようになってからは、「うっかり眠ると枕にしてしまう」という理由で、眠りたくても眠れなかったと言っていた。それが、枕にしても良いという許可を得たことで、また落ち着いて昼寝が出来るようになっただけの話。
──私でなくても、良いのだろうか。
 例えばキツネ、例えばカエル。彼女にとって「気の合う連中」の顔を思い浮かべて、首を振る。例えば私でなくて、もし違う相手がここに座っていたら。そしてそいつが私と同じように枕になることを快諾したら。こいつはやはり同じように、そいつを枕にして眠るのだろうか。考えたくはないが、想像はつく。……きっと、ぐっすり寝るのだろう。私はそっと溜息を吐いた。
 今日のこいつの枕は、私の右腿。膝枕、とまではいかず、頭を少しだけ凭れ掛けさせて、穏やかな寝息を立てている。鼻筋の上、額辺りでぴょこんと跳ねている髪を人差し指でくるくると弄ると、少しだけ頭が動いた。気持ちが良いのか、それとも不快なのかは解らない。が、起きる気配は見られない。
 一度火が点いてしまった「触れたい」という欲望は、「今なら起きない」という状況で少しばかり激しく燃え上がってしまったらしい。手が勝手に動いて、頭を撫でる。ぴくぴく動く耳の後ろを指先で掻いてやると、気持ちよさそうに鼻を鳴らした。頭がもぞもぞと動いて、私の手が側頭部から顎の辺りに導かれる。顎の下も撫でられると気持ちの良い場所のようで、実に幸せそうな顔で私の指を受け入れている。私の口元も緩むのが解った。
「……アン……ディ……」
 私が隣にいることで、こいつの夢の中にも私が登場してきたらしい。それとも夢の中でも、私に撫でられているのだろうか。夢の中の私とどんな会話をしているのか。寝言に返事をしてはいけないと思いつつ、思わず「何だ」と問い返す。
「大好、き……」
 へにゃぁ、ととろけきった表情で、聞こえるか聞こえないかの小さな囁き声。でも確かに、大好きと言った。……自分の願望ではなく、聞き間違いでもなく、寝言で、好きだと。何の前触れもなく、唐突に知ることが出来たこいつの本心。頭の中が真っ白になる。時間が止まると同時に何かが動き出す。
「わ、私、も」
 一方的に知るのはフェアではない。私だけが知って、こいつが知らないのは平等ではない。寝ていても良い、聞こえていなくても良い。それでも伝えなければと思った。自分の中でのルールが、それが正しいと言っている。
「好き、だ」
 そっと耳元で囁くと、幸せそうな顔のまま、すりすりと手の平に甘えてきた。

 

 

 


 

 

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