|
「それで、どうなんスか? 長年想い続けてきた彼女との同棲生活は」
会話が途切れた所でそうふってみると、彼はぽかん、と口を開けてこれ以上は無いというくらい間抜けな表情になったが、直ぐに顔中を真っ赤にさせた。
「な、な、な、何、何を言ってるんだお前は!」
「何って、事実を言ったまでじゃないッスか」
「事実だと!?」
「事実でしょう」
照れるあまりムキになる姿があまりにも可笑しくて、にこにこ笑ってそう言ってやる。彼は自分よりもいくつか年上だが、こういう部分は自分よりも子供っぽくて、何だか可愛らしいとすら思ってしまう。純粋過ぎる所が気に入って、自分は彼を友人と思うようになったのかもしれない。
「そ、そりゃまぁ、確かに、見方を変えれば、ど、同棲なのかも、しれないが」
頬を染めたままごほんと一つ咳払いをして彼が言う。が、仕切り直したはずなのにまだ口調がおぼつかない。
「見方を変えなくても、立派な同棲ッスよ、これは」
「だ、だがしかし、長年想い続けてきたってのは、おかしいではないか!」
「ま〜たまたぁ、何言ってんスか、あなたは」
からからと、笑ってみせる。
「俺、あなたから何度も何度も彼女の話、聞きましたよ。嬉しそうに楽しそうに話すあなたの顔、未だに覚えてます。それに俺、知ってるんスよ。あなたが彼女からもらったお守りを、大事に大事に、ずっとず〜っと身に着けてた事」
何かある度にそこに触れてたのはどこの誰ッスか? と口元に意地の悪い笑みを浮かべて指摘してやると、さすがに反論は出来なかったらしい。ぐ、と言葉に詰まって、俯いてしまう。……どうやら、相当、照れている。
「……で、どうなんスか? どこまで進みました?」
「……別に私は、そういう邪な考えでこの船に乗ってる訳では無い」
「でも、キスくらいはしたんでしょ?」
「………………キス、は、した」
「ほらぁ、やっぱりそういうんじゃないッスかぁ」
「……だが、あいつは、それを知らない」
「へ?」
その意味を一瞬では測る事が出来ず、思わず変な声を出してしまう。彼は口付けした事を知っていて、彼女は知らない。それは、つまり──
「……寝込みを、襲ったんスか?」
「へ、変な言い方をするな! 襲ってはいない!」
「でも、そういう事なんスよね?」
「………………あぁ」
意外な事をするもんだと思ったが、しかしそうでも無いなと首を振る。起きている時は怖くて出来ないから、寝てる間にやってしまったという事なのだろう。思わず、そっと溜息を吐く。
「でも、何で寝てる時にやっちゃうんスか。拒まれる事なんて無いでしょうに」
「……そんな事はない」
「ありますって。こう、顎に手を当てて、ゆっくり近付いていけば、必ず目を閉じてくれますって」
「……それは、無い」
彼はどこか自嘲気味に笑って、首を振った。
「確かに、あいつは私に好意を持っている。嫌われていれば船には乗せないだろうし、その、甘えてきたり、突然、頬に、き、キスとか、したりしないだろう。……だが、これは断言出来る。そこに特別な感情は無い」
「そうッスかねぇ……」
「いつも一緒に居れば、それくらい解って当然だ」
やけ酒でも呷るかのように、ぐい、とコーヒーを飲み干すアンドリュー。しかし、果たして当人の言っている事が正しいのかどうか。彼女が彼を探していた時は、確かにただ友人を捜しているという目だったけれど、先程見た彼女の目は、その時とは違う表情を宿していた。だから、これはと、思ったのだけれど。
側に居すぎて逆に見えていないのだろうかと、カイマンは思った。
←Back
|