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『後部シールド消滅』
どんな時でも冷静なの声がヘッドセットから聞こえ、唇を噛む。
出来るだけの事はした。砲手としての自分の腕は劣ってる訳では無いと思う──同時に、優れている訳でも無いと思う──が、何分数で負けていた。捕らえる事が出来ないのなら撃墜してしまえ、と意気込んでいる、どこぞの賞金稼ぎの小隊は全部で9基。それに比べてこちらは、本船である輸送艇と戦闘機一機。いくらオブジディアンが火器系統を強化しているとは言え、まともにやりあって勝てる相手では無い。
『……意外に早く消滅したね』
悔しそうな、しかしどこかこの状況を楽しんでいるかのようなの声。この状況でその態度は何だと彼が口を開く前に、ロボットの声が続く。
『相手が相手ですから』
『……そうだね。仕方ない、レーザー砲のエネルギーを後部シールドに回して。それとワープ航行の計算は終わった?』
『了解、エネルギー転送完了。いつでも跳躍出来ます』
『さすが。じゃ、データをこっちに送り次第跳んで。後で会お──』
「ちょ、ちょっと待て!」
口を挟む余裕が無い程に次々と進んでいく会話に、遮るようにアンドリューが叫ぶ。
『何? アンディ。時間的余裕は無いから早くしてね』
「お前は、帰鑑しないのか!? 一人でやりあうつもりなのか!?」
『へ? ……あ、この脱出法使うのって、アンディ来てから初めて?』
『えぇ』
『そっか。んじゃ、説明お願いね。3、2、1、GO!』
「おい──!」
の合図と共に、舷窓から見える景色が白く尾を引く星々に変わり、瞬時にワープ航行へと入る。慌ててレーダーで彼女が操縦する戦闘機の姿を探したが、もちろんその姿を見る事は出来ず。彼はヘッドセットを頭からひっぺがすように外して床に投げつけると、その勢いのまま、操縦室へと走った。
「おい、! 一体これはどういう──」
「……まぁ、落ち着いてくださいよ。今説明しますから」
はやれやれ、と溜息を吐くと、くるり、と頭部を回転させて彼の顔を見上げる。
「今からオブジディアン号は、5秒から30秒の間隔で数回跳躍します」
「……何だ、それは」
「相手をまく為です。何秒間跳躍するかは、全てランダムで選びます。跳躍プランは数種類作成し、全てリトル・スターにも送信します。オブジディアン号とリトル・スターは違うプランを使い、最終的に同じ場所で合流します。第一跳躍終了、第二跳躍に入ります。3、2、1」
一瞬だけ、通常の宇宙空間が舷窓に映し出されたが、それもまた直ぐに消え、どこか甘い色で覆われたワープ空間に戻る。
「……の安否を知る方法は」
「ありません。第二跳躍終了、第三跳躍に入ります。3、2、1。合流するまでは、オブジディアンはリトル・スターの安否を確認する事は出来ません。もちろん、リトル・スターがオブジディアンの安否を確認する事も出来ません。第三跳躍終了。第四跳躍に入ります。3、2、1」
「…………私に出来る事は?」
「ありません。あるとすれば、非科学的ですが、祈る事です。運悪く海賊狩りにあって、ワープ空間から引きずり出されないように。それでも、死ぬ時は死にますが。もちろん、達も。遺書を今のうちに読んでおきますか?」
「な……縁起でも無い事を言うな!」
「しかし現実的です。はあなた宛にも遺書を残しています。最終更新日時はこの仕事を開始する直前です。読みますか?」
「……はまだ死んではいないのだ。読む必要など無い」
「そうですか。では、読みたくなったら言ってください。第四跳躍終了。第五跳躍に入ります。3、2、1」
冷静すぎて冷酷にすら聞こえる、しかし現実を見据えたロボットの言葉に、胸が押し潰されそうになる。思わず卓の上に置いた手に力が入り、自然と拳になっていた。掌に爪が食い込んで、痛い。
「第五跳躍終了、第六跳躍に入ります。……これが、最後の跳躍です。30秒」
「……何?」
「3、2、1」
自分の姿が、ロボットの目にすら哀れにでも映ったのだろうか。一瞬だけ、の口調が柔らかくなった。アンドリューはちらり、と操縦席と副操縦席の間に納まったを見、直ぐにパネルに目をやる。
──25、24、23……
液晶に映し出される数字が、刻々と減っていく。
1秒1秒が、とても、長い。
──……16、15、14……
普段生活している時には、30秒などあっという間だと言うのに。
姿が見えないというだけで、何故こうも遅く感じるのだろう。
──……6、5、4……
一桁になってからまるで時間が止まったかの様。
一体、いつになったら、この数字がゼロになる──?
「第六跳躍終了」
永遠とも思える時間が終わり、の電子音混じりの声と共に周りが宇宙空間へと戻る。待望の真っ暗な景色に彼は急いでレーダーに目を移すが、そこにリトル・スターのサインは無い。背中と胸に、冷たい物が落ちる。
「おい、どういう事だ! の姿が見えないではないか!」
「の選んだコースは、オブジディアンより10秒遅れて合流ポイントに到着するものです。無事ならば、ですが。3、2、1」
『リトル・スター到着。そっちは無──』
「! 大丈夫か!? 何も異常は──」
『……無事みたいだね、良かった。、悪いんだけど、引っ張り上げてくれないかな』
「エネルギー切れですか」
『うん。使用燃料がなるべく少ないルートを選んだんだけど、ギリギリだったよ。ちょっと手間取り──』
「無視をするな! お前は──」
『……心配してくれたんだ?』
ロボットに報告していた物とは違う、穏やかなの声。その言葉に、彼が我に返る。
「ばっ、馬鹿を言うな! 何故私がお前の事を心配しなければならない!」
『……違うのか。……そか、そうだよね。うん、じゃぁ、今から引っ張り上げてもらうから、お出迎えよろしく』
跳躍に入るときと同じく、突然一方的に切れる通信。心配していない訳では無い。寧ろ心配しすぎて卒倒する所だった。そんな事はもちろん言えるはずもなく思わず全力で否定してしまったが、彼女は何も責めなかった。責めはしなかったが、声に僅かに寂しさと、傷付いた様子が見て取れた。……全く、どうして自分は、ああいう物の言い方しか出来ないのだろう。本当は、無事だった事を、抱き締めたいくらいに喜んでいるのに。
「リトル・スター収容完了。顔を見るのが怖くても、出迎えてあげてくださいね」
「……解っている」
アンドリューは肩を落として溜息を吐くと、操縦室の扉を潜りよろよろとハッチへと向かっていった。
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