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4.停電
オブジディアン号の照明が、突如として一斉に消えた。
「!?」
「……あ〜……」
狭い操縦室、それぞれの席に座ってくつろいでいた二人が、どちらも違った反応を見せた。
「な、何事だ!? 敵襲か!?」
「うぅん、多分、照明の配線がどこかで切れただけだと思う」
焦ったように腰を浮かして辺りを見回すアンドリューに対し、の方はのんびりと立ち上がると、操作盤を覗き込んだ。次々と画面を切り換えて、異常を探している。
「……随分、慣れているではないか」
慌ててしまった自分が恥ずかしく、しかし努めて平静を装いながら、操作盤を見つめるの背中に声を掛ける。彼女がひょいと肩を竦めるのが、ディスプレイの僅かな明かりに照らされて、ぼんやりと見えた。
「割と古い船だからねぇ……ちょくちょく消えちゃうんだよ。それでも最近はあんまり無かったけど。……あ、ほらほら」
ちょいちょい、と手招きされて、彼女の隣からパネルを覗き込む。そこには、確かに照明の回線のみがイカれている事が示されていた。シールドも、燃料タンクにも異常なし。思わずほっと息を吐く。後は回線を直せば、また船内が明るくなるだろう。しかし。
「……で、どうやって回線を直すのだ?」
「そこは、人の手でやらないとね」
「この真っ暗な中でか?」
「うん。だから懐中電灯を常備しておいたはずなんだけど……どこだったかな」
が足下を見るが、操作盤の下は真っ暗な闇で自分の膝すら見えない。彼女はぽりぽり、と後ろ頭を掻くと、その闇の中へと消えていった。一緒に探そうと、彼も後を追う。
「あれか、白くて黒い縁取りの」
「そうそう、それそれ」
それなら、見覚えがある。先日操縦室を片付けていた時、足下に転がっていた懐中電灯らしき物体を、丁度それが入りそうな場所へとはめ込んだ記憶がある。それは、確かこの辺りに……
「ひやぁ!?」
「!? す、すまん!」
暗闇の中で伸ばした手が、何やら柔らかい物に触れた。慌てて引っ込めたが、触れてしまった事に変わりはなく。どこに触れたのかは解らないが、あの感触、そしての悲鳴。ここから導き出される答えは、自然と限られている。
「わ、ワザとでは無いぞ!」
「………………絶対ワザとだ」
「な……っ! か、考えてもみろ! この真っ暗闇の中だぞ!? これで意図的に触れという方が難し──」
「だって、さぁ……」
怒り、というよりも純粋な不機嫌を表した声で、が言う。
「そのゴーグル、暗い所でも見えるんでしょ?」
「………………あ」
「あ、って何、あっ、て。……まさか、自分でも気付かなかったとか?」
「そ、そんな事は無い! もちろん最初から使っていたぞ!」
慌ててゴーグルの暗視機能のスイッチを入れる。思ったよりも近い所に彼女のむっとした顔があった。心臓が音を立てる前に、突如目の前に煌々とした光が現れる。ゴーグルが基準値以上の光を感じ取り、勝手に通常モードに切り替わった。吸収する光を絞りつつ何が起こったのか探れば、何てことはない。が、懐中電灯を真っ直ぐこちらに向けている。それは、そう、まるでテレビの古い刑事ドラマで良く見るような──
「じゃぁ、やっぱりワザとだ」
「!? だ、だから違うと言っているではないか!」
「でも、最初から見えてたんでしょ?」
「そ、それは……」
「白状しなさい、アンドリュー・オイッコニー。ワザと触ったのか、忘れてたのか、どっち?」
さぁ、と懐中電灯を構えたまま、ぐい、とこちらに身を乗り出す。彼は声にならない呻き声を上げていたが、やがて観念したのか、肩を落とした。
「…………すっかり、忘れていた」
「ふぅん? 本当に?」
「わ、私だって偶にはミスをする事もある!」
「ごめん、解ってる。君はうっかり忘れる事はあっても、ワザとお尻触ったりはしないよね」
疑うような表情から一変して、にこ、といつもの微笑みを見せると、彼女は伸びをしつつ立ち上がった。それと共に、明かりも上へと行ってしまう。暗くて見えないのを良いことに、彼はほっと胸を撫で下ろした。
「んじゃ、お願いね、アンディ」
「私が直すのか?」
「だって、懐中電灯の明かりじゃ頼りないでしょ? 暗闇でも見える君の方が適任だよ」
頼りになるなぁ、などと続けられれば、当然、彼の自尊心がくすぐられてしまう訳で。
「よし、任せておけ」
思わずふんぞり返ってどん、と胸を叩き、彼女に心の中で「解りやすいし、扱いやすい」などと思われてしまうアンドリューなのだった。
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