!」
 通路の先から現れた二つの人影に向けて叫びながら、アンドリューは背の高い方の影に向けて引き金を引いた。額に風穴の空いた男の腕からもう一つの影、が地面を蹴り、転がるようにしてこちらに来る。彼女を右腕で受け止めて、彼は左手のブラスターの光弾を2発、3発と続けざまに放ち、その後に続く男達を殺し、牽制する。その間にも腕の中でくるりと身体を反転させ、彼のブラスターを腰から抜くと援護射撃へと入った。恐らく自分達を過小評価していたのだろう。予想外に腕の立つ相手に怯んだ追っ手達の射撃が体勢を整える為に一瞬止まる。その隙を付いて彼は を右腕に抱えたまま、細い通路を駆けに駆け曲がりに曲がった。ここに来るまでに監視カメラを次々と破壊したせいか、ここの連中は自分達を見付けるのに苦労しているようだ。出会い頭にぶつかりそうになった男を何人か倒し、隠れる事の出来そうな部屋へと待避する。
「……ここなら、暫くは見付からないだろう」
 外の様子をドアの僅かな隙間から確認し、ようやく安堵の溜息を吐く。振り返っての方を見れば、頬や腕に少し焦げ痕があるものの、目立った外傷は見られない。服も、埃っぽく汚れてはいるが、乱れてはいない。身体は心配していた事も無く、無事だったようだ。だが、心の方は──?
「大丈夫か?」
「……えっ? あっ、うん、平気」
「……そうか? でも、とてもそうは見えないが」
 彼はどこか呆然としているの前に立ち、そっと頬を両手で包むと、彼女の目を真っ直ぐ覗き込んだ。小さく息を呑む音が聞こえる。
「本当に、大丈夫か? 傷物にされてないだろうな?」
「だ、大丈夫だったら。別に、何とも、無い……よ」
「では何故私から目を逸らそうとする」
 何もないと目を見て言えと続けると、は慌てて首を振った。
「ち、違うの、そういうんじゃないの」
「そういうのでなければ何だ」
「その……あの、ね」
 頬を押さえているにも関わらず、彼女の顔が徐々に伏せられていく。
「えと……その、アンディが……何か、かっこよかった、から……」

 

 

 らしくない程にもじもじしながらの言葉に、アンドリューは思わず両手を離した。

 

 

「だ、だって、何かいつもと雰囲気違うんだもん! だから……その……って、アンディ?」
 うっかり見惚れてしまった自分を恥じるかのような言い訳をしていたが、彼からの反応が無い事に気付き、顔を上げる。
 アンドリューは、両手を離したそのままの姿勢で、頭のてっぺんから尻尾の先まで完全に硬直していた。
「お〜い? ねぇ、アンディってば。お〜い」
 ゴーグルの前でぱたぱたと手を振ると、彼は油の切れた歯車のような音を立てて、ゆっくりと顔をへと向けた。
「……お前……今、なん……」
「え……だから、かっこよかった、って……て、もしかして」
 が、ちょこん、と小首を傾げる。
「……照れてる?」
「なっ、何を馬鹿な!」
 言われて、アンドリューの顔が一瞬にして耳まで真っ赤に染まる。怒りと喜びと照れくささと焦りとそれを隠そうとする表情が全部一度に現れた。
「わ、私はそんな、か、かっこいいと言われただけで、動揺するような男では、な、無い!」
「……でも今現に思いっ切り挙動不審なんですけど……」
「う、五月蠅い五月蠅い! これは、その、そう、お前が酷く傷付いてるかもしれないと思ってだな、わざとおどけてるだけだ!」
「……そうかなぁ」
「私は嘘は吐かない! それは今までの経験で解っているだろう!」
 確かに誤魔化そうとはするけど嘘は吐かないよね、という言葉を、が賢明にも飲み込んだ事を彼は知らない。ただひたすら、何とかこのやかましい心臓の音と自分でも解る程に熱を持った頬を、少しでも悟られないように隠し通す事しか頭に無く。
「ほ、ほら、こんな所からはさっさと出るぞ!」
「はぁい」
 だから、自分が無意識にの腕を取って引いた事にも、その返事がやけに嬉しそうだった事にも気付かなかった。