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アンドリューは自室に入ると、よろよろとベッドへと歩み寄り、足側の縁へと腰掛けて溜息を吐いた。
最近、自分の様子が、明らかにおかしい。
おかしい原因は分かっている。だ。あいつがにこりと笑みを向けてくれるだけで、心臓が大きな手で鷲掴みされた様に、ずくんと痛く苦しくなる。今だってその痛みに耐えられず、急いで逃げてきたばかり。以前はこんな事は無かったと、また深々と溜息を吐いて、そしてばたんと後ろへと倒れて三度目の溜息。
一体、これは、何だと言うのだろう。
痛いのも苦しいのも嫌いだが、しかしどこか心地よい。もうこんな痛みはゴメンだとその時は思っても、少し時が経ち落ち着くと、またそれが欲しくなる。そしてそれを得ようとして彼女の笑顔を求め、そして痛みと苦しみを得て……繰り返し繰り返し。まるで麻薬中毒者だなと彼は苦笑とも嘲笑とも付かない笑いを漏らし、そのままじっと天井を見る。
いつから、こうなってしまったのだろう。
雇った側と雇われた側という立場の時は、何とも無かったのに。
確かに、あの時から──親しくなった時から、が笑いかけてくれることが嬉しいと思ってはいた。だがその時は痛みなど感じなかった。人に心からの笑みを向けられるなど滅多に無かったので、貴重な友人を得た事が嬉しかったのかもしれない。今だって貴重な友人に変わりはないというのに、しかし色々な事があの頃とは違う。例えば、今は上司と部下という関係になっていること、例えば、今はに雇われている側であるということ、例えば、あの頃よりももっと親しくなっているということ、例えば、もしかして、私は──
「……が、好きなのだろうか」
自分では全く意識せずにぽつりと飛び出した言葉に、我に返る。今、私は何と言った? あいつが、好き?
「友人としての、好き、だ」
うん、そうなのだと頷いて、肩の力を抜く。
──果たして、本当にそうなのか?
心の中に棲むいつも自分を見下す自分の、嘲笑する声が聞こえた。
「そうだ。は、大事な親友だ」
──その他の感情は、混じっていないとでも?
「無い。純粋な友情だ」
──ではスターフォックスの連中に嫉妬心を抱いているのは、どういう訳だ?
「そ、れは……そ、そうだ、あいつが、私が嫌いな奴らと仲良くしてるのが、気に食わないだけだ」
──では、もし私が奴らと友人であったら、そんな感情は抱かないとでも?
「あ、当たり前だろう。同じ友人に、なるのだからな」
──……ふぅん、あくまで友情だと、言い張るのだな。
自分がくすりと、笑った。
──それならば。それは、何だ?
頭に響く声に、ぴくん、と肩を震わせる。
自分が指しているのは、枕元どころか枕に頭を乗せている、手作りの人形。
──純粋な友情を抱く者を、そんな風にするか?
敗北、だった。
溜息を吐いて、枕の上にある人形を見て、手に取る。服のデザインを考える時に使おうと思い作った人形は、誰がどう見ても彼女を象っていて。毛の色も長さも、全部一緒。スタイルこそ二頭身だが、見れば直ぐにデフォルメされてキャラクター化されたようなの姿だと解る。
自分を見る彼女と、同じように。
途端に、またしても胸が痛くなる。自分の記憶にあるその時の彼女の笑顔が脳裏に蘇り、更に痛みが激しくなった。どくんどくんと強く早く血液を流す心臓にその人形を押し付けて、酸素を欲しがる身体に荒い息を吐いて、求めている物を送り込む。
私は。私は。
わたし、は。
「……私は……」
身体を起こして、人形を身体から離し、再度瞳を真っ直ぐに見つめる。なぁに、と首を傾げて言葉を待つの顔が、人形の顔と重なった。
「……お前、が」
自然と手に力が込められる。その手はじっとりと湿り、喉に唾が引っ掛かった。ごくり、とそれを飲み下す。
「……好き、だ」
違う、この言葉ではない。これでは彼女には伝わらない。すぅ、と息を吸い込んで、口を開く。
「愛して、いる」
埃が落ちる音すら聞こえてきそうな程の静寂に、我に返る。
「……何をやっているのだか」
でも。
言いたい、と、思った事は、事実で。
「……」
と。
『? 何?』
──……いや、ただ私が恥ずかしいだけ……だ、な。
心の中の声と意見が一致し、アンドリューはまたも深く溜息を吐いた。
坊ちゃんが変態でゴメンナサイ(爆) おかしいなぁ、格好いい彼を書きたいはずなのに、どんどん変な方向へ突っ走っていくぞ?(爆)
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