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「……あ」
荷物を抱えてちょっとした店舗の連なる通りを歩いていたが、ふと足を止めた。
視線の先には、フリルの真っ白なエプロン。
普段なら視界に入った所で気にも留めず素通りしてしまう所だが、今回は何故か意識してしまい立ち止まった。改めてはっきりと視界の中に入れて、その理由に思い当たり、小さく頷く。別に着たいと思った訳では無いが、いつもエプロンを着ている人物を一瞬にして連想して、自然と足が止まってしまったらしい。うん、あの姿は結構インパクトあるよねと一人納得して、口元に笑みが浮かぶ。
「……買ったら、着るかなぁ?」
彼が船の奥底から見付けて引っ張り出してきたエプロンは、黄色一色の当たり障りのないシンプルなデザインの物。あまり使われなかったのがバレバレの綺麗なそれは、しかし虫に食われた痕跡が何カ所かある。新しいエプロンを買って贈れば、きっと彼は喜ぶだろう。だが、それにしたって、このまるでメイドが身に着ける様なフリフリひらひらした可愛らしいデザインは無いだろう。いくら彼が旦那さん──いや奥さんも──を募集したら引く手あまたの家事万能人間とは言え、どこからどう見ても男、それも背が高く可愛いというよりは恐い、純度100%の男。こんな物を贈ったら、間違いなく怒られる。……でも、その顔も見てみたい気もする。変な趣味を覚えちゃったなぁと後ろ頭を掻きながら、彼女はもう一度エプロンを見た。
──着ないんだったら、私が着ればいっか。
贈られる側が聞いたら間違いなくお前の方が着ないだろうとツッコミを入れられそうな言葉を頭の中で呟きながら、は店の扉を開けた。
******
「はい、おみやげ」
は自分の家である輸送艇に戻り、購入してきた大量の荷物を整頓用の小型ロボットに渡すと、リビングで掃除機をかけていたアンドリューに綺麗にラッピングされた箱を渡した。
「あぁ、ありがとう。……しかし何故突然おみやげ?」
今までそんな物を買ってきた事無かったではないかと言われて、ひょい、と肩を竦める。
「ん〜、理由は無いけど、何となく目に止まったから」
「ふぅん? まぁ、いい。一体何を買ってきたんだ?」
「そんなの、開けてみれば解るじゃない」
早く早く、と促すと、彼は掃除機のスイッチを止め、一度不思議そうに耳元で箱を振った後、包装紙のテープを綺麗に剥がして実に丁寧に中身を取り出した。几帳面だなぁと感心するの前で、そんな風に思われているだなどとは露ほども思わず、彼がかぱりと音を立てて白く平な箱を開ける。
そこから現れたのは、フリルの付いた真っ白なエプロン。
「………………おい」
声が随分低い。それを目にした途端に彼が俯いてしまったので表情は見えないが、肩と箱を持つ手が震えている。やはり怒らせてしまったらしい。しかも、想像以上に。これは、まずい。
「ごっ、ごめん! 軽い冗談のつもりだったんだけど……さすがにやりすぎだったよね。ほんっとごめ……」
突き返される前に取り戻そうとした手がすかっと空を切り、彼女は最後の「ん」を言う事が出来なかった。予想外の手応えに箱の行方を捜すと、彼が高く持ち上げている。長身の彼が持ち上げているのだから、例えぴょんぴょん跳ねたとしても届かないだろう。しかし何故、彼は取り戻されまいとしたのだろう?
「いや……せっかくお前が私の為にとわざわざ買ってきたのだし……それに捨てるのももったいないではないか」
「……へ?」
「ありがたくはないぞ! ありがたくは無いが、その、今着ているのも割と古いしな。決してありがたいとは思わないが、使ってやらない事もない。ありがとう」
言っている事が滅茶苦茶で、頭にいくつも疑問符が浮かぶ。俯いたままで見えない表情を伺おうとすると、彼はくるりと踵を返してリビングから出て行ってしまった。しっかりと見た訳ではないが、ちらりと一瞬だけ見えた顔は、隠そうとして隠し切れていない様なおかしな笑みが浮かんでいた気がする。ゴーグルからうっすらと透けて見える目も、何だかとても輝いていたような……?
「……アンディ……実はとても喜んで、る……?」
そんなまさか、と思いつつも、はっきりと否定できない気持ちもあり、はただ呆然と彼が去った先を見つめていた。
彼女の疑問は、水が飲みたくて入ろうとしたキッチンで、贈ったエプロンを身に着けて鼻歌を歌いつつとても楽しそうに夕食を作っているアンドリューの背中を見た瞬間、はっきりと確信へと変わった。
そしてその後テーブルに並べられた物が自分の大好物ばかりだという事に気付いて、その評価が更に「実は物凄く欲しかった物」に塗り替えられた。
冗談のつもりだったんだけどなぁとスプーンを口にくわえながら、喜んで良いやら何だか悔しいやら複雑な思いを抱きながら、エプロンを着けたまま目の前で嬉しそうに食事をしている青年を見て、彼女は軽く溜息を吐いた。
その……メッセでエプロンの話をして……無性に書きたくなってしまって……。
どんどん甥っ子が変人になっていきますが気にしなーい(爆)
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